2007年 10月 20日
澤登翠35周年記念上映会
当代随一の活弁士、澤登翠さんは、今年で弁士35周年。
幼少5歳のみぎりより始めて…といういつものジョークで幕を開ける、記念上映会に行ってきました。
学士会館の会場も、さすがに満員御礼。
何となく座席中央に席を取ってみたら、人人人の頭でスクリーンが半分ほども見えないほど。
まあ、『東京行進曲』は映像を思い出しつつ、他2作品はぐっと首を縮め隙間から覗くことでなんとかしのぎましたが、澤登師匠の豊かな活弁と、カラード・モノトーンの叙情的な劇伴のおかげで、たとえスクリーンがまったく見えなくなってしまっても楽しむことができました。

一本目は、よく知られた『東京行進曲』ですが、澤登師匠の弁は初めての私。
斎藤裕子嬢の弁を耳にしていたので、何とはなしに聞き比べてしまいます。
ここで上手下手を語るのは、訳知り顔の野暮天というもの、同じフィルムでありながら、どんな雰囲気になるのかを感じましょう。
本編の往時を知るよしもない私いや私たちに、作品を通じて優しく語って聞かせつつ、その当時へと誘うのが、澤登師匠の語り口。
冒頭で郷愁を誘う、『東京行進曲』主題歌の一節を歌われたことで、会場は一気に昭和4年。
澤登師匠の懐の深さ、包容力の大きさを、強く温かく感じる瞬間は、いつにもまして心地よいものでした。

活弁の母…。

長い活弁の歴史の中で、このフレーズが正しいのかどうかは寡聞にして存じませんが、テレビ世代の私にとって、澤登師匠はまさに『活弁の母』なのです。
ちなみに、斎藤嬢をこれになぞらえるなら『活弁姐さん』ってそのまんまか(笑)

続きましては、『モダン怪談100,000,000円』
ほら、そこで一十百千…と数えたあなた、普通そうですよね。
これを見て一億円なんてすぱっといえる人が、そう多いとは思えません。
というのはどうでもよくって、本作はちょっとした国定忠治のパロディーも愉快なドタバタ喜劇。
これに付けられたアドリブだらけの活弁も、愉快ゝ。
監督の斎藤寅次郎は、流行り物のパロディーが得意だったそうなので、フィルムが残っているのなら小特集なんか組んでいただけると、嬉しいですねぇ。

トリの作品は、『真紅の文字』
澤登師匠が光と影の映像美を強調されたとおり、モノクロームのトーンはどことなく黄金期のドイツ映画を彷彿とさせられます。
この、リリアン・ギッシュの「いい話」に登場する、ロジャー氏。
髪も髭も伸び放題の相貌が、『悪魔スヴェンガリ』のジョン・バリモアにそっくり!
惜しむらくは、本作で重要な意味をしめる役ながら、もうひとつ活躍に乏しいところ。
あらすじはネット検索すればわかると思うので割愛しますが、不貞を攻められる針子へスターと、彼女への許されぬ愛と聖職との間に苦悩する牧師アーサー。
この二人が厳しい戒律に縛られた村を出て遠い異国へと決意したその日に現れたのが、実はへスターと重要な関係を持つロジャー。
このロジャーが二人に復讐をするといいつつも、病に倒れたへスターの娘を治療したりして、なんだかいい人。
この緊張と珍妙をはらんだ関係が物語の終盤も終盤のみなので、もっとたくさん描かれていると、よかったなぁ。

おっと、活弁と劇伴は、まさに映画と三位一体渾然一体。
特筆すべきはこの雰囲気としかいえぬほど、会場を満たし五感を満たされたこの空気、私ごときには筆舌に尽くしがたい物でした。

そんなこんなで、数日前に思い立って予約を入れたこの記念上映会でしたが、足を運んでおいてよかったよかった。
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by cthulhu_dune | 2007-10-20 21:20 | 映画・映像


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