2007年 12月 11日
活弁公演 in ふれあいサンデー
 小春日和というほどでもないが、寒の切れ間の日差しも暖かな師走の9日。昼下がりの町田駅に降り立った私たちを出迎えてくれたのは、方向感覚がどうにも定まらない町田の繁華街だった。簡単ながら携えていた地図と、交番前の地図とを見比べ、危うく正反対に歩き出すところだったりしながらも、数多く見られる老舗の乾物屋をのぞき込み、町田紀行のついでに寄りたかったいくつかの店舗も発見しつつ、会場の町田市民フォーラムに到着。

 開演の2時までにはまだ一時間ほどの間があったが、とりあえず受付時間を確認。1時に受付開始だというのでしばし館内をうろちょろしていると、準備中の弁士・斎藤嬢と、楽士・三沢嬢に出くわしたり。ヤァヤァコレハコレハ、カクカクシカジカ、実は1時半の会場なのであったということで、ちょいと昼食を取りに繁華街へ。

 しかし、さすがに昼食時。ハンバーグに吸い寄せら、オムライスに心惹かれるも、いずこの食堂も待ちが出ていたりして、へたをすると会場に間に合いそうにもない。ここは一つファーストフードにしようと、ロッテリアで数量限定の何とかいう高級チーズバーガーのセットにすると、これが思いのほか旨かった。が、どうにもフライドポテトは食べきる前に飽きちゃうのだなぁ。

 よい時間になったので市民フォーラムに戻り、ホールに入場。毎度ながら弁士かぶり付きの席に陣取り、うつらうつらしていると開演時間。斎藤嬢、三沢嬢共にグレーでシックな出で立ちで登場。これは先ほど合ったときと同じなのだが、『オペラの怪人』の時のような派手なドレスを期待していたらしいカミさんは「地味だ~」とちとがっかりしておった。『血煙高田馬場』に『ロイドの要心無用』という演目に、ド派手なドレスはどうかと思うが。それに、これが普段着だとしたら十分に派手だと思うぞ。いやまあ、あのお二人ならそれもなきにしもあらずですわオホホホホ…?

 さて、肝心の本編。まるで10月品川の宿の仇討ちのように同じ演目なのだが、弁士マイクの音響がよいこともあってか、いつにも増してパンパンと弾けるように響き渡る活弁。これに呼応するように、ピアノの緩急強弱も冴え渡り、安心してスクリーンに釘付け。ただ、あんまり釘付けになりすぎると、実は舞い踊っていたりするやもしれない弁士と楽士を見逃してしまうので、これでなかなか気が抜けない。フィルム、弁士、楽士の三つ巴に、観客も加わっての大乱闘なのだ。

 そのほとんどを安兵衛が駆けるだけという、10分にも満たない短編『血煙高田馬場』は、弁士も楽士もひたすら突っ走る。全編早口言葉のような活弁もさることながら、本作でユニークなのは、やはり劇伴。古い時代劇によくあるテケテン三味線ではなく、三沢嬢オリジナルのアップテンポなモダンジャズ。

 おっと先にお断りしておくが、私はジャズはそれなりに好きなものの、まったくもって詳しいわけではないので見当違いのことを書いているかもしれないのでご了承を。何はともあれ、この劇伴によって『チャンバラ』が『CHANBARA』になるのである。この唐変木がローマ字にしただけじゃねぇかと言われれば、はいその通りなのだが、モダンな雰囲気に一変したチャンバラは、私にはこうとしか表現しようがない。

 『ロイドの要心無用』は、都会で一旗揚げようと意気込んでみたのはいいものの、田舎の婚約者に変な見栄を張るもんだから、ちっともうだつの上がらない男のコメディー。他力本願で一攫千金をねらうつもりが、自らまいた種のおかげで自分で一攫千金にのぞむ羽目になる、ロイド眼鏡にカンカン帽でおなじみのハロルド・ロイド君は甲斐性無しのくせに憎めないのですなぁ。

 ちなみに、実に意地の悪いことをいうと、この当時の優れたコメディー映画は、弁士どころか字幕無くしてもストレートに楽しめる作品が多い。チャップリンがとことんサイレントにこだわったことを思い出せば、さもありなんとうなずけるだろう。そのため、活弁がこれらのコメディー映画をより盛り上げられるか、単なる添え物に終始するのかは、まさに弁士の力量次第なのではないかと思う。

 果たして、弁士・斎藤嬢の運命やいかにっ!などとおバカなことがいえるほど、この問いに対する答えは決まっている。何度も書いていることだが、斎藤嬢はスクリーンの中に入り込み、登場人物たちと共に時に笑い時に涙しながら、決して観客を置き去りにすることなく活弁をふるうのだから。もちろん、一言一句間違えないというわけにはいかないが、この独特の雰囲気に飲み込まれる楽しみは、なかなかほかでは味わえないはずだ。

 また、元々音声がないとはいえ、劇伴だけはないと寂しい、というよりも睡魔に襲われるのがサイレント映画。実はこの劇伴が重要な割にくせ者で、既存の曲を作品のイメージに合わせて組み合わせるのが一般的だと思う。しかし、選ばれた曲に統一感がない程度なら大目に見られるが、ものよっては単なるクラシックの垂れ流しというひどいものもあったりする。もちろん、見事なオリジナル曲のものもある。

 そこで、キネマ・コラボレーションの大きな楽しみの一つは、三沢嬢オリジナルの楽曲にある。品川で聞いたロイドはスイングが前面に出ていたと感じられたが、今回の町田ではもう少しポップでデキシーランドのような雰囲気。曲調の感じ方には体育館とホールという、場所が持つ雰囲気の違いが大きいのかもしれないが。もちろん、場面によって何かを予感させるようなスイングも効いていた。

 さらに圧巻は、ロイド君がビルをよじ登るクライマックス。ここで弾かれた、重厚で勇壮なクラシック風の楽曲が、五感にずしんと響く響く。これと、軽快なモダンジャズとの切り返しに繰り返しは、映画の顛末がわかっていてもワクワクさせてくれるのだ。それにおそらく、早弾きの譜面はマシンガンのような音符の嵐だろうと思う。もう、矢も盾もたまらんっ!

 右耳は活弁、左耳は劇伴、目はスクリーンと弁士と楽士をウロウロ、身体がいくつあっても足りませんな。といったところで、長くなりすぎたのでレビューはぶった切り。このあと、町田紀行のもう一つのお目当てだった、インディアンジュエリーのココペリ、アートボックスのヴェラスを回り、カミさんはピアスや帽子をお買い物。斎藤さんの実家居酒屋『藤』でふぐちりにかぶりつき、満腹満足で帰途についたのであった。
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by cthulhu_dune | 2007-12-11 16:15 | 映画・映像


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