2018年 05月 22日
忌まれし扉劇場「インスマウスの影」
昨夜は四谷三丁目、喫茶茶会記「哲学者の薔薇園」で開催された、忌まれし扉劇場「インスマウスの影」を観劇してきました。
朗読するにはかなり長いと思われるこの作品、どんな具合に仕上げるのかとても楽しみでしたが、話すと長くなる部分をバッサリと切り落とし、緩急それぞれの頂点を見事にまとめ上げた翻案短縮版!

旅費をケチったがためにインスマウスを訪れることになった「起」、バスの乗り換え時間の間にインスマウスとマーシュ家の歴史を知ることになる「承」、バスが動かず図らずも恐ろしい一夜を過ごすことになってしまった「転」、難を逃れたものの自身の血がその災禍の中心に帰結していく「結」。

インスマス面の「私」に扮したチェリー木下さんの朗読、ダゴン秘密教団の司祭に扮した永井幽蘭さんのピアノと歌が、時に寂しげに、時に情熱的に物語を紡ぎ出し、締めくくりは人魚姫になぞらえたインスマウスの歌。興奮と恐怖の絶頂で、まるで断崖絶壁から突き落とされたがごとくには幕を下ろします。

表現手法で特筆すべきは、有名な「フン グル イ・ムグルウナフー〜」の発音。つぶれたのどから絞り出すようにして発声され、あたかも深きものどもの声音であるかのように聞こえます。バスの運転手ジョー・サージェントも、しわがれたというより絞り出すような声音でしたね。嫌悪感がマシマシです。

また、原作とは異なる表現や言い回しもありましたが、それはそれでとても効果的。特に、インスマウスの影を象徴する呪われた血脈を「血は運命に流れる」と繰り返し叫んでして締めるあたりは、異形へと身を変え狂気に落ちてゆく「私」の激情を強く感じ、鳥肌が立つとともに涙が出てしまいました。これ、映画ではよく見ているんですが、やはり目のまでで繰り広げられる生の迫力は違いますね。

映像作品と比べるのはあまり意味のないことですが、「インスマウスの影」を主題にした映像作品はおそらく3本で「インスマスを覆う影」「Return to Innsmouth」「DAGON」、ビジュアル化としてはこれらに勝るとも劣らず、ラヴクラフト映画全般と比べてもこれほど見応えのあるものは滅多にありません。

本作のサウンドトラックが出ないかな。「インスマウスの歌」はまた聞きたいですね、というか本作の再演を希望しますし、次回の忌まれし扉劇場も観劇したいですね!

チェリー木下さんの「怪奇幻想クラブ・渦とチェリー」、忌まれし扉劇場「インスマウスの影」の記事



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# by cthulhu_dune | 2018-05-22 16:10 | Lovecraft Cthulhu 映画
2018年 04月 23日
なつかしポップカルチャーの祭典「レディ・プレイヤー1」
「レディ・プレイヤー1」を観てきたよ。これが本当のおもちゃ箱をひっくり返した作品。1980年頃のポップカルチャーの祭典なので、当時をリアルで過ごしていないと共感しにくいガジェットばかりだとは思うけど、「おもちゃ箱」自体はいつの時代も変わらないはず。なので、自身のおもちゃ箱の中身を思い出しながらそれを当てはめていくと楽しめるのではないか。

あまりに既存のキャラクターが大挙して押し寄せてくるので、確かにその魅力に頼っているようにも感じるが、ゲーム、コミック、アニメ、特撮、音楽をただてんこ盛りにしてマニアの知識を満足させるだけではなく、VRによるスラム生活の激変からゲーム業界最大手のIOIの内情、バーチャルとリアルのギャップが悩ましい青春ドラマ、ストーリーの根幹となるミステリーとサスペンスまでしっかりと描かれている。もちろんポップカルチャーを一切取り除いてしまっては本作の楽しさは半減してしまうが、仮にすべてのキャラクターがオリジナルであったとしても、十分に楽しめるはずだ。

特に本作の舞台となるスラムでは、ドラッグとアルコールと暴力ではなくVRに逃避する貧困層ってのに驚いてしまった。これはとても健全なように見えつつも、犯罪の温床がVRに移行しているとも捉えられるので、あれこれ考えさせられるものがある。

とはいえ、残念だなと思う部分もある。殺人をもいとわないはずのソレントの押しが弱すぎて、ラストではなに感動してんだよ!とがっかりしてしまった。IOIでの地位も重役止まりであり、上の命令に逆らえないというのはまあいいとして、オアシスの創設者ハリデーとの関わりがコーヒーの好みしか知らないとはあまりに弱すぎる。ソレントがオアシスに執着しているのはハリデーへの個人的な逆恨みか、黒幕が誰かさんでやっぱり逆恨みじゃないかとワクワクしていたのになぁ。あ、ハリデーとモローの確執もなんだかよくわからなかったのは、何か見落としがあったかな。

IOIの刺客フナーレだってとても魅力的なのに、なんだか間抜けな最期で残念。まあ、現実では情けないワッツがVRの助力で現実を戦うってのは面白かったけどね。

最も魅力的な悪役は大空魔竜ガイキングみたいなアイロック様だけだったけど、現実でのキャラクター設定がなかったのが惜しい!もう現実での刺客なんてドローンだけでいいから、アイロック様の活躍をもっと見たかった!チャッキー爆弾はアイロック様に使ってほしかった!アイロック様バンザイ!

あと、プレイするゲームが「アドベンチャー」と聞いてニヤリとするIOIの社員と、IOIの頭脳集団がいい味出していたね。主人公達が順当に鍵をゲットするんじゃなくて、5年間もひたすらがんばってきたIOIの平社員と頭脳集団に1つぐらい勝たせてほしかったなぁ。

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# by cthulhu_dune | 2018-04-23 10:39 | 映画・映像
2017年 07月 19日
操觚の会トークショー「歴史時代作家の最前線」
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7月18日に新宿ライブワイヤーにて行われた、操觚の会トークショー「歴史時代作家の最前線」に行ってきました。平日夜なのでひょっとしたらすいているかなと思いましたが、なんと満員御礼の大入り!直木賞候補の木下昌輝先生効果も要因だと思いますが、普段は活字でしか知らない作家にお会いできるというのはとても貴重な機会ですね。

今回は「作家に何でも聞いてみよう」と題し、来場者との対話を楽しむ形式。飛び交った実名が突然伏せ字になって、来場者はワクワク、関係者はたぶんドキドキの場面もあり、実に興味深い内容。以下、かなりはしょったレポートです。

鈴木英治局長
秋山香乃さんとの主従関係、でもとても仲良し…。最近飛ばしている鈴木先生のお話は楽しい。
ヒット作を出すためには、とにかく書き続けること。シリーズが続くと、ある日突然右肩上がりになる(こともある)。
一日に書いた最高枚数は140枚!
面白い小説はキャラクター作りが重要。読者はキャラクターに会うためにリピーターになる。キャラクター作りに関しては、菊地秀行先生と小池一夫先生の対談で同様のことをおっしゃっていました。

早見俊副隊長
徹底的に力を込めた作品よりも、肩の力を抜いた作品のほうが受けがいい。
編集からもプロットを求められなかったり、ご自身もプロットを書かずに本編を書き始めることが多い。
早見さんが出版社から求められる時代劇は、勧善懲悪でエログロなし。
個人的に「若さま十兵衛」で妙に死人が多いと感じたので、ひょっとしてこれまでの路線から変わったものを書かれるのかな?とダークヒーローものについて質問しましたが、書いてみたけど落とされた、書きたいけど書かせてもらえない、とのこと。出版社としても作家ごとに色合いを分けているのでしょうけど、早見さんのダークサイド時代劇、読んでみたいですね。早見さんらしい善の色の強いキャラクターを一転させる、例えば毒をもって毒を制する柳生十兵衛とか。

新美健先生
ゲームのノベライズが下火になった頃、執筆関係の仕事がいくつか動き出して小説家としていけるんじゃないかと感じた。
デビュー作が特別賞10万円コースなので、鈴木英二局長の後輩。
賞の選考では、推薦してくれる選考委員の力がなんとかかんとか…。

木下昌輝先生
直木賞発表前夜!確率は(候補が5作あるので)20%!お話の多くは直木賞関連でしたので割愛。
テーマをひとつ決めてメインとなる短編を書き、そこから話を広げていく。作品のテーマの決め方や、情報収集のひとつにカルチャースクールがある。
武蔵の場合は、DTPスクールで知った吉岡憲法が原点となる「憲法黒」がきっかけだった。しかし、武蔵の資料は信憑性の高いものが少なく、また自己顕示欲の強いものが多いためにとっかかりとなる作品を生むのに難儀した。
マイナーな主人公かもしれないが、お祭りがあるものは年に一度は必ず話題になるので、長く読み継がれるかもしれない。「天下一の軽口男」の米沢彦八、「絵金、闇を塗る」の弘瀬金蔵とか。
尊敬する先達はいるが、木下さんとしては星新一のような何でもありの作品を書きたいとのこと。
若い人達に時代小説を読んでもらうことに関しては、高校生直木賞が有意義であり、意外な視点で読んでいることに気がつく良い機会だった。こちらに関しては、「宇喜多の捨て嫁」巻末に収録されています。
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期待された強敵と書いて友と呼ぶ谷津矢車さんとの対決は、剣ではなく筆(口とも言う)で、俺の分野に入ってくるんじゃねぇとか、次は何を書くんだとか、まだまだ手の内を探るつばぜり合いでした。
おいらは「人魚ノ肉」が大好きなので、今後もこのような伝奇、ファンタジーに振った作品を書かれる可能性はあるのか訪ねたところ、もちろん書きたいし、書くつもりとのこと。
また、フィクションとノンフィクションのボーダーライン、虚の部分を作る上でこれ以上はやってはいけないとしているところがあるのかとの問いには、意外にも、史実をしっかり押さえたうえで、後は自由に想像して描くそうです。ただし、見破られにくいところで史実の中に虚を盛り込むことがあるのでおたのしみに!とのことですが、おいらじゃ見破れないぞ。

登壇される先生方のトークもさることながら、軽妙洒脱で打てば響く誉田龍一さんの司会がめっぽう面白いのが、操觚の会トークショーの大きな魅力。汗をいっぱいかきながら盛り上げる誉田さんも応援しよう!
以降の操觚の会は、9月と11月です。

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# by cthulhu_dune | 2017-07-19 16:28 | 文化・社会